尚美のこと【二夜 後編】
私が車を降りると尚美はすぐ後ろを付いてきた。
山小屋のドアを開き照明のスイッチを入れようとしたとき、私の背中に身を寄せてきた尚美を感じた。灯りがついて自分の顔を見られたくない…と、その仕草が伝えているようだった。
私はスイッチを入れるのをやめて、彼女のほうを振り返り胸元に引き寄せた。俯いた顔を覗くと瞳はまだ潤んでいた。
浅いキスを交わすとすぐ、彼女は私のセーターのボタンを外してきた。それが合図のように、私達は競うようにお互いの服を脱がしていった。下着姿になった私と彼女は、寝室にしているロフトへの階段を昇った。
枕元の行灯を灯し、体を重ね深いキスをする。彼女の体は火照り熱を帯びていた。そして或る種のまったりとした香りを放っていた。
尚美は積極的に私を求めてきた。そうせざる負えない事情を持っていて、それを無言で伝えようとしている。また彼女は焦っている、早く伝え切りたいようだった。
尚美が私の(溜めておいた欲情と精液のお陰で臨戦態勢が整った)硬いペニスに手をやったとき、私は彼女の体を離し、上体を起こさせ、行灯の脇へ座らせた。彼女はペニスから手を離して、私の導きに困惑しながらも従い、何故?というふうに呆然としている。私は彼女の前から二メートル半ほど離れて座って胡座を組んだ。
そして…「自分でしてごらん?」と言った。
彼女は瞬きを幾度かして「え?…」と声を漏らし、首を横に振った。
「いいから、してごらん、見たいから」
長い沈黙と戸惑いのあと、彼女はゆっくりと、おそるおそると、股間に手を運んだ。
「もっと足をひろげて、もっと、」
「片方の手で胸を触ってごらん」…彼女は従った。
「さっきのお風呂のことを思い出して… 二人の男を」
彼女は、いやっ と言って激しく首を振った。手を止めた彼女に「さぁ、続けて、見せて」と催促する。
否応を許されず続ける尚美。乳首を摘み、摩る。中指と薬指でクリトリスを擦る。次第に息づかいが小刻みになり荒くなる。彼女の潤んだ瞳が何かを懇願しているかのように私を見ている。これから官能の極地へ踏み入れることへの赦しを乞うように。
私は続けた。「あのまま居たらどうなったと思う?」「男達が尚美に近づいて手を伸ばしてきたら」
尚美は「いやっ… だめっ、」と言って、蘇る記憶を必死に振り払い拒んでいる。
しかし、乳首とクリトリスの快感がその記憶を鮮明にして、再び呼び起こしている。
私はもうひとつの過去、パラレルワールドを仮想しながら、自らも官能の極地へと踏み入れようとしている。今、目の前にいる尚美の恥態に導かれて。
「すごく濡れてる、男達も見ているぞ」
尚美の指の動きは一層激しさを増した。右手は乳首を捏ね、左手の中指と薬指はいつの間にか、壺の中に滑り込ませていた。挿した指の関節で急所
を探り、指のつけ根でクリトリスを擦っている。粘液も溢れるほど増して、くちゅくちゅと壺の外へ掻き出す音をたてている。シーツには大きな滲みができていた。
濡れても大丈夫なシーツを濡らしている。
【二夜 狂想】に つづく…