尚美のこと【琴線】
逢瀬を始めて何度目だったか、まだ尚美を優しく抱いていた頃…のこと。
一戦を終えて(二戦目をいける歳でないのだが)私の手枕の中に尚美がいた。そして私の胸に頬を置いている。私は彼女の艶のある髪とつむじを見ている。
しばらくして彼女は唐突に「聞いてください」と言ってきた。これから聞く言葉を手枕の中で紡いでいたのだろう。
「昔からずっと、歳上のひとに憧れるんです」
「父はそういう対象には全く見えないのですけど、父の友人やアルバイト先の店長や、ゼミの先生にときめいた感情を抱いていたんです」
私はアルバイト先の店長やゼミの先生の姿を頭に浮かべた。
尚美は一度大きな息をして、続けた。
「父と同じくらいの男性との交わりは…」
「…私の琴線かもしれません」
尚美の敬語はいつも優しくて心地よい。
どうして、父親のような歳の私と付き合ってくれているのか?その疑問は当然あったが訊く機会もなく、そして勇気もなかった。
彼女の告白(カミングアウト)は私の鼓動を早くした。私は相づちもせず黙って聞いている。言葉が見つからず、でも何か言わないとと考えているとまた鼓動が早くなった。彼女はたぶん、私の胸に当てた頬で今それを感じとっているのだろう。
尚美はおもむろに体をずらし、私のペニスに口づけをして、大きくしようと舌を使い始めた。
彼女の体から大事なものがこぼれて、早くそれを私のもので埋めて欲しい… ように。
でも、 ペニスは再起しない。
私はそっと尚美を引き上げ、キスをした。
代わりに彼女の口を埋めた。
次話【縛る】につづく…