情妾【参】
富夫は幸江のシミーズをたくし上げて、乳房を揉み乳首を摘みながら、唇と舌で女陰を貪るように舐めている。溢れる淫汁をすすりながら幸江の顔を見る。幸江はかたく目を閉じて歯を食いしばっている。油断すると昇りつめる快感に必死に抗い耐えているようだった。時折ぱっと目を見開いたかと思うと、全身を硬直させて仰け反り、息を止めても漏れる声は、呻きとも喘ぎともわからない音をあげている。
富夫は見計らって幸江から一旦離れ、服を脱ぎ捨て全裸になった。幸江は富夫の移り動く気配を感じて虚ろ目で追う。富夫が手を添えた陰茎は、夫のものより太くて逞しかった。富夫は幸江に戻ると無言で股を割り足を高々と上げ、その復起した逞しい陰茎を、唾液と淫汁で濡れそぼった壺の中に押し込んでいった。
幸江「あ … だ め あぁ あ」
その後は縛られたまま、表にされ、裏にされ、幸江は犯され続けた。
昇天の堰をきらせまいと懸命に堪えていても、じんじんと湧き立つ被虐と恥辱の情悦。喘ぐ加代の顔が脳裏に浮かび、自分と重なり合い、意識の中で混濁する。目の前で加代が悶えている。身を捩って抗う念も泡のように潰れて、幸江の全身は痺れから一気に快感に包まれていった。
幸江「い い … いぃ い く」
富夫「おぉ、こりゃ、た、たまらん」
「あ、あんたの中、蠢いて締め付けてくるぞ」
幸江「いぃ いぃ … い いく いく」
富夫「おおぉぉぉ〜 ワシも、もう、出すぞ」
富夫が慌てて抜いた陰茎から白い液がほとばしり幸江の腹に点々とかけられていく。その温かい感触は永く続いた。握られて絞られる陰茎からは白い糸をひいた雫がまだ垂れている。
富夫は大きくため息を漏らして、汁で塗れた陰茎をちり紙で拭う。幸江は悔やみきれない結末に涙が溢れて、その雫は目尻を伝い髪を濡らしている。富夫はそんな幸江の顔を覗き込み、満足そうに微笑んだ。そして幸江の傍に座り、またひとり喋り出した。
「あんたの息子、啓太君じゃったかのぅ?今高校三年生じゃろぅ。近所の評判じゃが、えらい賢いそうじゃなぁ」
富夫は真面目な顔になっている。「ワシの妾になってくれりゃあ、大学も行かせてやれるし、どこ行っても仕送りもしてやるぞ」
富夫はひとり頷きながら続けた。「今の狭いアパートからすぐにでもこの家に住んでも構わんが、息子が変な勘ぐりをしてもいけんから、まぁ大学へ受かったら一人暮らしさせて、それたら幸江さん、あんたはここへ住んだらええ」
幸江は天井の宙の一点を見つめながら富夫の話を聞いていた。そして妾になった自分と啓太を想像して、また涙を流した。
《一ヶ月後》
啓太は学校から家に向かっていた。今日は試験があり午後から休みだった。帰路の途中の八百屋の手前まで来たとき、母の幸江が店に入るのが見えた。店から出たら驚かせてやろうと思い通り過ぎたところで物陰に隠れていた。暫くして母が出てきた。こっちへ来るのかと思っていたら家とは逆の方へ歩き出した。向こう側にはもう店はないはず。母はうつむき加減で歩幅も小さく、少し深妙な表情に見えた。どこに行くのだろう? 後ろめたさを感じたが声をかけずに後をつけることにした。町外れまでやってきた。母は迷いもせず見慣れない町角の狭い路地に入っていった。
距離を置き尾行を続ける。すると、林に囲まれた小さな平家の一軒家の玄関で立ち止まった。買い物籠を持ったまま玄関の引き戸を開ける。鍵は掛かっていないようだった。母は躊躇もなく中に入って行った。引き戸が閉められたのを見届けて、啓太も玄関の前に立つ。表札はない。少し引き返して高い柄の陰に隠れて、母がまた出てくるのを待った。誰かに何かを届けるために訪れたのだろう。しかし、いつになっても出てこない。啓太は心配になり家の周りを巡ってみることにした。窓から中を覗き込んでも母のいる気配は見つからない。裏に回ると勝手口のような扉があった。取手を引くとみると鍵はかかっていなかった。思い切って家の中に入ってみることにした。物音をたてないように静かにゆっくりと歩を進める。台所と居間らしい部屋は暗くしんみりとしている。いったい母はどこに行ったのだろう?不安が募ると同時に不審に思う。長い廊下があった。ふと奥を見ると突き当たりの部屋からほんのりと灯りが漏れていた。その時、かぼそい声のような音がした。
「あぁ…」それは確かに母の声だった。言葉になっていない声だけど啓太にはわかった。襖と襖から漏れる一筋の灯りの線。
啓太は過去の同じような光景を思い出した。四年ほど前のある夜、眠っていると物音で目が覚めた。それは入院中の父が外泊許可をもらって自宅に戻ってきた夜だった。深夜なのに、父と母が寝ている隣りの部屋に灯りがつき、布の擦れる音がしていた。気になって襖の隙間をつくり部屋の中を覗いてみた。母と父が布団の上で裸になっている。舌を絡め唇を重ね合う二人。母の掌には父の陰茎があり、やがて父の口を離れた母の唇は胴を這い掌の陰茎まで辿り、それを口に含んだ。そんな母の愛撫を愛しそうに見つめる父。そして、ひとしきり尽くした母は父に跨り腰を揺らした。
思春期の啓太は、父と母の大人の営みの末に自分が生まれたのを知っている。しかし、その営みを目の当たりにするのは余りにも衝撃的で、耐え難い動揺と、何かに裏切られたような、嫉妬に似た激しい情感も味わうことになった。… その夜、自分の上で腰を振る母の夢を見た。朝起きると夢精をしていた。三日間、父は家で過ごして病院に戻った。そして半年後、そのまま帰らぬ人となった。
「あ あぁぁぁ」
灯りの漏れる部屋から声が大きくなっていく。父が戻ってきたのか? 妖しい灯りは蜃気楼のように記憶と交錯して、異次元に連れていかれたような錯覚に陥ってしまった。細い襖の隙間を覗いてみる。行燈の灯りに照らされた物体が見え隠れしている。顔はわからないが、声は紛れもない母のもの。建て付けの悪い襖は下の方が少し開いていた。貪欲になった啓太は身を屈めて片目を這わせて見る。
… 母がいた … おかぁちゃん、
と … 心の声で呟いた。
裸身を乱され、弄ばれて淫らに化した肉の塊。夢想のような情景に我を忘れて母の肢体を追う。そして、父と信じた男は…
つづく …
情妾【弐】
幸江「大家さん …」
突然現れた富夫に意表をつかれた幸江は、驚きよりも唖然とした様子だった。アルバムは開いたまま、閉じることも忘れていた。はっ、と我に戻り慌ててアルバムを閉じてスカートの裾を直した。実は無意識にスカートを上げ下着の上から股間に手を添えていたのだった。暫くして体が熱くなってきて顔が紅潮していた。
富夫「来てくれとったんじゃのう」
「お?、おぉ、それ … 」
幸江の傍にあるアルバムを富夫が見ている。
富夫「ここの箪笥の中にあったんかぁ」
「探しとったんじゃ」
幸江は言葉が出ない。この前来た時にはアルバムは確かになかったはず。棚の引き戸も閉めたはず。それが少し開いていた、誘いだされるように…。富夫はアルバムを顎で指しながら言った。
富夫「幸江さん、その写真、見たんじゃな」
言い終えると、富夫は微笑みながら箪笥の棚に向かい別の引き戸を開けて縄を二束取り出した。そして幸江のところへ寄ってきた。
富夫「写真に写っとるんは加代という女でな」
「ワシの妾じゃった」
幸江は寄ってきた富夫からの視線をはずして床を見つめている。アルバムを見て何かしらの感情を抱いていたのを読まれたのかもしれない、ことへの動揺で体が動かなくなっている。
富夫「幸江さん、あんたには、わからんかもしれんが」
「そんな男と女の世界もあるんじゃ」
幸江「わ、わたし、… わかりません」
「?あ、あっ、、」
突然、富夫は幸江の後ろに回り腕をとり体を引き寄せてきた。余りの突然のことで抗うことも忘れていた。そして両手を腰の後ろで交差するように捻られてしまった。
幸江「い、痛い!な、なにをなさるんですか!?」
「やめて、やめてください」
富夫は傍に置いた縄を手に取ると、幸江の上着のシャツを後ろに引いてずらして剥ぎ、そして手慣れたさばきで両手の手首を縛っていった。一瞬のことで体に力が入らない。幸江は前屈みになり、乗せられた富夫の体の重みで身動きができなくなっている。両手を結んだ縄は前に回され乳房の上下に渡された。富夫の荒い息使いが首筋にかかる。抗いを諦めず渾身の力で身を捩る。ようやく富夫の手を振り解くことが出来た、が、時すでに遅く、後ろ手に固く縛られて、体を横に臥せることしか出来なかった。
幸江「や、やめて、縄を、縄をほどいてください!」
「お、お願い … 」
富夫「幸江さん、あんたはどことのう … 」
「加代とよぅ似とる … 」
「柔らけぇ肌も白さもそっくりじゃ」
富夫は上がっていた息を整えると、いきなり幸江の股間に手を差し込んできた。そして下着の上から陰部の辺りに指を添えた。富夫は窪みを指でなぞりながら…
富夫「ほぅ、濡れ具合も加代にそっくりじゃ」
幸江「い、いや、、触らないで!」
富夫は外した指を鼻先へ持っていき匂いを嗅いでいる。「い、いや、、」シミーズ姿で横たわる幸江を見下ろしながら富夫はひとり喋りだした。
「加代は此処に住んどったんじゃ。ワシと加代は縄遊びが好きでなぁ、最初はあんたのように無理矢理じゃったが、そのうち加代もまんざらでものうなってきてな、昔はワシも若かったから毎晩、いや昼間っからこの部屋で加代を縛って甚振っとった。じゃがある時、ワシが体を悪ぅしてな、甚振りの後の交わいが出来んよぅになってしもうて、加代にも満足させてやれんようになったんじゃ。そこで思いついたんが、他の元気な男に責められる加代を見ることじゃった」
富夫は曇った表情になったが次を続けた「加代は嫌がったが、なんとか説得して知り合いの若い男衆を呼んで一緒に甚振って、仕上げはワシの目の前で縛ったままの加代を抱かせたんじゃ。感じまいと歯を食いしばって耐える加代が堪らんでなぁ、そんな遊びを日を増して繰り返すようになってしもうた。」
富夫は大きくため息をして続けた「因果なもんで、ワシの知らんうちに加代と男衆のひとりが恋仲になってな、ある時突然駆け落ちしてしもうた…。ワシの患いも治ってこの息子も使いもんになった矢先じゃ。」
富夫は膨らんだ股間を握りながら自慢げに寂しそうに告げた。「そうじゃ、その頃の写真もあったぞ」富夫はアルバムをめくりながら、幸江がまだ届かなかった最後の方の項で手を止め、幸江の顔の前に差し出した。「加代に後ろから挿しとる男がそうじゃ。」
そして富夫はおもむろに言った。
富夫「幸江さん、あんたワシの妾にならんか?」
「もう家賃なんぞ要らん」
「ワシがあんたらを養のうたる」
幸江は何も言わずに首を静かに横に振った。この縛られた姿で強く拒んだ言葉を告げて、富夫の逆上を誘ってしまうのが怖かった。
富夫「こんな見窄らしい古着も着んでええ」
「ワシがええもん買うて着さしちゃる」
富夫はそう言うと、一気に幸江のスカートをずらし剥ぎ取った。
幸江「い、いや、やめて、お願いっ」
富夫「やっぱりじゃ、加代 … いや、それ以上、」
「加代より綺麗な肌じゃ」
富夫は露わになった幸江の白い脚を撫でて摩っている。幸江は目をきつく閉じて耐えた。
さっき見せられた加代と男衆の絡み合い。当然今まで他人の営みなど目にしたことはなかった。それも…縛られて弄ばれ、犯されるように交わっている写真。加代という女の喘ぎ悶える顔、深々と挿し込まれた女陰、男達の太く固い陰茎。幸江の目の前にはまだ、その情景が開かれたままだった。
夫が亡くなって三年、満たされない性(さが)は時折自慰で補っていたが、体の芯に届く濃密な刺激ではなかった。この写真のような … 。
富夫は、幸江の黙って返事のない様子に諦めたように言った。
富夫「仕方がねぇ」
「体に覚えさすしかねぇか」
幸江「や、やめて、… いや … 」
富夫は押し入れから座布団を取り出して横たわる幸江の体の下に敷いた。
幸江「 … いや … 」
富夫は縛った幸江にあらゆる前戯を施した。幸江は自分の陰部が滴るほどに濡れているのを自覚している。富夫は何も言わない。しかし、その溢れた淫汁を吸う じゅるじゅる という厭らしい音が部屋中に響いている。
傍のアルバムを見る。
犯されている加代がいる。
加代がこちらを見ている。
そして … 目があったような気がした。
つづく …
情妾【壱】
昭和42年の夏のある日、富夫は自分の所有するアパートへ向かっている。今日は月末、家賃の徴収のためだった。二世帯の集金を終えて次のドアの前に立ちノックをして世帯主の名前を呼ぶ。
富夫「幸江さん、大家の塚本じゃ、おるかのぉ?」
中から声がして暫くしてドアが開く。幸江が汗ばんだ前髪を整えながら取り繕った笑顔を見せる。
富夫「月末じゃから家賃を貰いに来たんじゃ」
幸江「…大屋さん、ごめんなさい、」
「あと一週間、待ってもらえないですか?」
富夫「幸江さん、先月分もまだ半分しか貰うてないじゃろ」
「大丈夫かぁ?」
幸江「はい、内職のお金が入るので大丈夫です」
幸江は夫を三年前病気で亡くし、今は裁縫の内職をしながら高校生の一人息子、啓太とこのアパートで暮らしている。
富夫は困った顔を見せるが、何か思いついたのか暫くして微笑みながら幸江の顔を見た。
富夫「幸江さん、ちょっと相談があるんじゃが、」
「ここはなんじゃから上がらせて貰うてええかのぅ?」
幸江「…あ、でも内職の途中で散らかってますから…」
富夫「ええんじゃ、ええんじゃ、かまわんから」
富夫は許可を待たず厚かましく、幸江の傍を通り勝手知ったる居間の方へずかずかと入って行った。そして食卓の椅子に無断で座った。幸江が冷蔵庫から冷えた麦茶を差し出す。
富夫は喉に流し込むと一息して言った。相談というのは、富夫の持っている空き家の掃除を定期的にしてほしいとの提案だった。買い物か何か用事で出掛けた時でいい、掃除をする時間もその時の都合でいい、もし請け負ってくれたら家賃は待つし手当ても出す。との事だった。ただ… そこの空き家は、富夫の元妾の住んでいた家だったらしい。
富夫「放ったらかしにしとったら埃まみれになるしな」
「たまにゃ、窓も開けて風通しをよくしてやらんと」
「ワシも歳じゃし腰も悪ぃしなぁ」
「幸江さん。どうかのぉ?」
幸江は妾が住んでいた家ということもあり気が引けたが、家賃滞納の負い目もあるし、少しでも家計の足しになればと、渋々だが引き受けることにした。
そしてある日息子が学校へ行った後、買い物の帰りにその空き家へ寄ってみることにした。鍵は富夫から預かっていた。
その家は町から少し離れた所にあり、林に囲まれてひっそりと佇む小さな平家の一軒家だった。とり囲む塀は高く手入れされた植木が繁り、そのせいで家全体が暗く陰気な印象を与えていた。玄関の引き戸を開けて入ってみると昼間なのに中も薄暗かった。部屋の中も湿気があり少しカビ臭く感じたので外の空気を入れるために窓を開けた。台所と居間、お風呂とトイレ、そして部屋が三つ。埃は少し掛かっていたが、思ったより片付いて整理されていた。殺風景という表現のほうが合ってるかもしれない。
そして最後に入った部屋。そこには窓はなく、より殺風景な趣きの部屋だった。床は板張り、天井には頑丈な格子の梁がある。そして壁には大きな鏡と二つの箪笥。何か舞台のような重々しい…そんな存在感があった。
箪笥の棚が気になったので、その小さな引き戸を開けてみる。ほとんど空だったが、いくつ目かの棚の奥に何かあった。取り出してみると、縄だった。よく見ると赤い染みのようなもの… 爪で擦ってみたら、ぽつりと欠片が落ちた、蝋?。そういえばと周りに目配りすると、床の板の隙間にも赤いものか挟まっていた。それも赤い蝋だった。どうして縄と床に蝋が?… もう一度天井の格子に目をやると、木角には縄で擦れたような跡が無数に付いていた。そして柱にも… 。
その日は小一時間、簡単に掃き掃除をして帰った。それから三日後、二度目は時間を作り拭き掃除をするつもりで行った。そして… また、あの奥の部屋へ。気になっていた床の赤い蝋を取り除こうとした時、箪笥の棚の引き戸が少し開いていたのに気付いた。この前閉め忘れたのかと思い近寄ってみると、縄とは別の物が入っていた。冊子?、手に取って見るとアルバムみたいだった。表紙の隅に「加代」と書いてある。
アルバムを開いてみる。目に飛び込んできた、あまりの衝撃に息を呑む。今まで見たことがない、まして想像したこともない、異様で奇妖な… そして淫らで艶やかな情景…。好奇に誘われて項をめくってみる。
その時、襖の陰に人の気配を感じた。
「幸江さん、来とったんか?」
つづく …
大家 塚本富夫(61才)
富夫の妻 塚本久枝(57才)
母親 吉川幸江(46才)
息子 吉川啓太(18才)
元妾 加代