淫梅戯画【前編】
此の媼の名は、お梅。亭主に先立たれ、永い間やもめ暮らしをしていた。先日縁あって、女房を亡くした同じ境遇の男の元へ嫁いできた。男の名は興悦という。生業は絵師。但しその類は春画である。お梅はその事を知らない。
嫁いでひと月まだ夫婦の契りはない。寝床も別である。或る日、お梅が興悦の書斎を煤払いしていると描紙が目に留まった。春画である。縛り絵、責め絵、交合し絵…。絵で有りながら、初めて目にする其の悍ましい情景。お梅は竦む思いであったがつい描紙を捲る。
其処へ家主の興悦が現れた。慌て咄嗟に逃げようとするお梅を捕まえると、箪笥に仕舞っておいた麻縄でみるみる間に縛り上げた。
「なにをなさるのですか?離してくださいませ」
「お梅、此の絵が儂の生業じゃ、女ごを縛って甚振り、其の景を画にする」
お梅は縛られたまま黙って聞いている。
「じゃがな、儂の魔羅は不能不全、女ごを悦に堕とすことはできん体じゃ」
「お梅、おまんを画にしとうて娶った」
「心得て聞いてくれ、おまんと交合う男は儂ではない、翌る日此処へ来る坊主じゃ、その坊主との淫景を画にする」
坊主:某寺で修行中に檀家の女房衆をことごとく手篭めにし、その業で破門され寺を追い出された。其の後は、好色で稀にも無い絶倫故の素質を買われ、足抜け女郎や女囚の折檻、嬲り役を与えられる。
「おまんも亭主を亡くし暫く男日照りであろう、この機に一層の悦びを味わうがええ」
「旦那様… お梅は見ての通りの年増女でございます、逸な絵にはなりませぬ」
「どうか、どうか… 堪忍してくださいまし… 」
お梅は其の日縛られた姿のまま土蔵で過ごした。
そして、翌る日辰の刻、坊主がやって来た。
…後編につづく。