或る淫景
【壱の景】
蔵の中の牢に閉じ込められて十日余り。窓は閉ざされていて、蒸し暑くても汗ばむ体を拭く布もありません。三度の食事は与えられていますが、排泄は牢の隅に置かれた蓋の無い木桶。汚物の臭いが漂っていて消えません。
配膳と木桶を替えるのは老婆です。私が何を言っても老婆は返事をせず、無言のまま事を済ましてそそくさと蔵を出ていきます。
私はただ、この牢の中に置かれたままなのです。
ある日突然、私を閉じ込めたあと十日余り姿を見せなかった男が蔵の中に入ってきました。男の姿は褌一枚。牢にいる私の驚いた視線を尻目に何か支度を始めました。
まず、敷かれたのは染みだらけの煎餅布団。その黄ばんだ染みは体液のようでした。そして蝋の跡が点々とある竹の棒。中身の怪しい土壺。そして… 大小の様々な形の淫具。浣腸器、蝋燭、鞭…。その全ては使い熟され、悍ましい拷問の結末の証しだと思い知らされる物でした。
それらはまた、私に施される試練の道具の数々なのだと察しがつきます。
男は支度が整うと私の牢の方にやってきて、扉を開けて入ってきました。そして怯えた私の首輪の縄尻を持って、強引に布団の傍に座らせ、手足を縛りました。
私は怖さと緊張で汗が体中から吹き出てきました。その時の汗の臭いは、汚物に塗れ乾いた私の体と下着が染みだらけの煎餅布団と同類であることを自覚させ、記憶の元に晒したのです。
私は縛られた体を折り、土下座をして、泣きながら必死に赦しを乞いました。
【弐の景】
私の弟はその男の妻と姦通を重ね、挙げ句の果てに駆け落ちをしようとして弟と妻は捕まりました。そして、夫の逆鱗に触れた妻は娼女として楼閣に売られていきました。
それでも男の恨みは消えず、謝罪に行った私を捕らえ監禁し手籠にしたのです。その後も甚振り、嬲り、辱めの日々は続きました。
座敷は汚らわしいと庭に敷いた筵(むしろ)に座らせ、私を欲しいままに甚振りました。ある時は四方に打った杭で磔にして、拷問めいた折檻もされました。
男は欲情する度に庭に降りて私を犯しました。私の惨めな姿に男は欲情し、絶倫と化し、幾度も精を私の壺の中に注ぎ込みました。
男の妻は子供の産めない体でした。そのせいで男は妻に冷たく辛く当たり、妻はその苦しみもあり弟と交合ってしまったそうです。
私の償いは続きます。
男は私を孕ませるつもりです。
【参の景】
あんたのことが忘れられんでなぁ。
人の妻だと思っとっても辛抱堪らんようになるんじゃ。
儂ゃあ少々変態じゃが乱暴者じゃあねぇ。
始めの頃にゃ嫌々言うても懐いてくる女もようけおる。
でもな、すぐ懐く若けぇ女は好かんのよ。
辱めて恥ずかしがる、慎ましい年増女がやっぱりええなぁ。
そうじゃ、その顔じゃ。
ほれ、見てみぃ、厭らしい道具じゃろぅ。
これであんたを、ひぃひぃ言わせりゃ、もう想い残すこたぁねぇ。
さぁぼちぼち始めるかのぉ。
布団の上ぇいって横になれ。