淫獣の棲みか 其の四
「ううぅ~~」
両腕の痺れるような激しい痛みを感じます。
瞼が少し開き最初に目に入ってきたのは、足元の汚れた畳。
どうして、そんなに汚れているんだろう?
それから私の足が見えました。竹の棒と縄で縛られた足首。
痛みのある両腕を見ようと頭を上げると、
鴨居か吊り下がった縄で、腕のほうも竹の棒で縛られてました。
顔を正面に向けて目の前を見るとぼんやり誰かが…。
そこに居るのは三人の男達でした。
並んで胡座をかいて座り、こっちを見ています。
皆、裸なの? あれは下着? あの腰の布は? ふんどし?
だんだんと意識が戻ってきます。
そして、今、私がどのような姿なのか知ることになります。
まるで「火」の字のように、両腕、両足を開いた立ち姿で、
その手足はそれぞれ竹の棒に縄で縛られ、鴨居から吊られています。
赤い下着を着けて…、 ワンピースは… 脱がれて ました。
やはり男達は皆裸、ふんどし姿でした。
破れた障子、色あせた襖、おどろおどろしい欄間の柄。
そして、、足元の畳の汚れ。
私が今いるところはいったいどこなの?
奇怪な時空に迷い込み、この世から置き去りにされたような、
意識が朦朧とするなか、まだそんな錯覚に包まれています。
でも、漠然と…、もう二度と現世には戻れない、ここから抜け出せない。
理不尽な宿命の予感はしているのです。
そして、、男達に抑えつけられた記憶が蘇ってきました。
「ああああ~~」
その落胆の衝撃で、また気を失いそうになりました。
「奥さん、気がついたようじゃのう」
「ほほ、よかった、よかった」
男の声で、この悪夢はやはり現実なのだと…また思い知らされます。
「奥さん、畳が汚れてるんが気になるんか?」
「へへへ、じゃったら教えたろう、」
「そりゃあな、おなご衆の汁じゃ」
「汗、涙、涎、鼻水、それとなぁ、へへ、よがり汁、、しょんべんもか」
「いろ~んな汁をな、いっぺい吸って、その染みじゃ」
「奥さんとおんなじ格好にされてのぉ」
そう言うと三人が一声に大きな声で笑い始めました。
笑いながら、「てかてかして赤いんはのぉ、蝋燭じゃ、ほほぉ~」
私は恐怖とおぞましさで体が硬直して声も出ません。
そのかわりに、涙が溢れてきて、それは垂れてほとぽとと、
…足元の汚れた畳の上を濡らしました。
私はこれから何をされるの? どうやって弄ばれるの? いつまで続くの?
私は… 私はどうなるの? また涙が溢れてきて頬を伝い、畳の上に。
「お…、お願い、これをほどいて、おうちに帰して、、」
一人の男が襖の陰から鞄と私のハンドバッグを持ってきました。
そしてハンドバッグから色々と出し始めたのです。
「奥さん、昭子ていうんじゃのう、しじゅうなな(47)かぁ?」
私の免許証を見て言いました。
「うちのかかぁと同い歳じゃの」
「ほんまか、おめぇんとこのあれ、しじゅうななじゃったんか?」
「もうろくじゅう(60)ぐれぇかと思うとった」「こりゃ!!しばくぞ!」
「いやぁあ、おんなじ生きもんには見えんわ、ほほほ」
「まぁ、たしかにのぉ、うほほ」
「こりゃあ、手帳か」「きれぇな字ぃ書くのぉ」
「おお、またベッピンさんがおるで」「娘さんか?、奥さんとよぉ似とる」
「嫌!やめて!勝手に見ないで!」
男達が寄ってたかってを吟味する言い草は「ばい菌」となって、
私達の家庭、生活すべてに伝染し、蝕み腐らせているようでした。
男達は今度は旅行鞄の中身を見始めました。
そこには、夫が秘かに入れたモノがあるはずです。
案の定…
「奥さん、コレはなんだ?」「ほほほ、コレも」「まだあるぞ」
ブウィーン ブウィーン 「こりゃあええ、こりゃあええ、へへへ」
私の体は震えが止まりません。立っていることができません。
鼓動は激しくなり、目眩と吐き気がしてきました。
男達はそんな私を無視して玩具で遊んでいます。
玩具を動かしながら、「奥さん、やっぱり好きなんじゃのぅ、ほほ」
「ち、違います、それは、それは夫が、、」
「おお? ほぅ、ほぅ、ほぅ、なるほどな」
男達が鞄の奥で見つけたものは…たぶん… あの『縄』です。
「そうじゃ奥さん、儂らも自己紹介せんとなぁ」
宿の主人の男が、玩具を撫でながら、私のほうを見て言いました。
「儂ら、よう似とるじゃろう、顔も背も、頭も、ふほほ」
「儂ら三つ子でのぉ、儂が一郎、長男じゃ、そんで二郎、三郎、ほほほ」
「名が手抜きじゃろう、わかりやしぃがの」
ん=うう、うううぅ、ん==うう
「おろ?旦那さんが目ぇさましたみてぇじゃの」
「こっちへ連れてくるかぁ」
「え? 駄目! 嫌、嫌っ! やめて、、」
「なんでじゃあ?、夫婦じゃろう、仲がええんじゃろう ?へへへ」
「この玩具で一緒に遊ぶんじゃろう?」
「お願い、ほどいて! お願い、ほんとに!」
男達は隣の部屋と隔てている襖、後ろの襖を開けました。
私はとっさに顔をそむけて目を瞑りました。
こんな、こんな私の姿…、夫と目を合わせるわけにはいきません。
「ううう=!うう、ううう===」
夫の声が、なんだかおかしいことに気付きました。
くぐもった声、それも押し迫ったような声、、苦しそう。
おそるおそる目を開けて襖の向こう、隣の部屋を見ました。
なに、なに?その格好は、、なんてことを…。「あなた!」
夫は後ろ手に縛られ、足も縛られ、下着一枚で転がされていたのです。
口には猿ぐつわを咬まされていました。
夫は横たわった体のままこちらに顔を向け、
そして、私と目が合ったのです。
夫と私は放心状態で言葉も発せず、しばらく呆然と見合っていました。
「旦那さんとご対面じゃあ」
{つづく}